ボズの日記(Diary of VOZ)

VOZ(声)。ついついアタマの声に騙されてココロの声を聞き逃してしまいがちな毎日ですが、ダレカの声にも耳を傾けながら書いていきたいと思います

蒙古の怪人 キラー・カーン

 昨年末に亡くなられたプロレスラーのキラー・カーンさんには一度お会いしてみたかったなあ、彼がやっていたお店に一度行っておけば良かったなあとすごく後悔しています。

 実は僕は彼と同じ新潟県西蒲原郡吉田町(現在はお隣だった燕市に吸収合併されています)の出身で、彼は小中学校の先輩にあたるんです。ご実家は薬局を営まれていました。

 まだ僕が小学生の頃ですけど、地元の広報誌に彼の記事が出ていて、同じ町出身のプロレスラーがいるんだって驚きました。僕はその頃TVアニメの「タイガー・マスク」がきっかけでプロレスにハマっていたので興味津々でした。その後もその広報誌に彼の記事がたまに載っていました。まだ無名だったのに彼は日本から海外に武者修行に行っている間も町に寄付を続けていたと記憶しています。

 海外での大活躍を受けて彼が日本に凱旋帰国したのは僕が高校生の頃だったと思います。ちなみに僕が通っていた高校のある新潟県三条市ジャイアント馬場の出身地でした(別に僕の地元は”巨人”ばかりじゃないですよ。。でも馬場さんもカーンさんも新潟人っぽいんですよね。特に口元とかしゃべり方とか)。

 いよいよ小沢さん(キラー・カーンさんの本名)が日本のプロレス中継に初登場するということで、学校のプロレス好きの男子の間では盛り上がりました。地元から生まれたヒーローなわけですから。ただ、「キラー・カーン」というリング・ネームでなんか悪役っぽいぞという前情報はありました。

 当日僕はTVの前でワクワクしながら待ち構えていました。そして、いよいよ彼の出番になりました。すると、毛筆調の派手な文字で、確か

「蒙古の怪人 襲来」

 と(多少違ったかもしれませんが)テレビ画面いっぱいに映し出されました。そして、モンゴルの衣装を身にまとって頭は弁髪にした”キラー・カーン”が入場してきたわけです。

 ”おらが町のヒーロー”がモンゴル人という設定で帰還したわけで、何とも複雑な気持ちになったことをよく覚えています。

 しかも、甲高い奇声をあげながら両手で顔面を挟むようにチョップする”モンゴリアン・チョップ”というのが得意技で、アントニオ猪木のようなカッコいいスタイルとは真逆だったんですよね。

 じゃあ、強くて憎たらしいヒール(悪役)かというとそうでもなくて、ある試合で相手選手の凶器攻撃で頭から血を流すと甲高い奇声をあげながら逃げるように転がり回ったことがあって、すると解説者の山本小鉄さんが

「昔から小沢は血を見ると急に弱気になるところがあるんですよ」

と言ったんですよね。そんな話の流れで本名を明かさなくてもいいじゃないか、って僕はちょっとムッとしましたがw。。

 イメージとはかなり違ってはいましたが、僕はプロレス中継を見るたびに彼を応援しました。彼の人間味というか、実はすごくいい人なんだって感じがだんだんとわかってきたんです。ずっと見てるとそういうのって滲み出てくるもんですよね。多くのファンの人にも伝わったんじゃないでしょうか、彼は”悪役”なのに妙に愛される人気レスラーになっていきました。

 しかし彼は40歳で引退してしまうんですね。プロレスは50歳60歳でも続ける人がザラで40歳なんて全盛期の年齢です。プロレスの世界であまりに理不尽に感じることがあって、続けられないと思ったようです。とんでもない額のギャラも積まれたそうですが、それも蹴ったと言われています。

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 優しく、でもまっすぐで頑固な人だったんでしょうね。

 古舘伊知郎さんのYouTubeチャンネルで彼について語っている動画があって、その中で、古舘さんが彼に悪役は大変だねと言ったら

「そんなことないよ、ヒールだって認められて、プロとしてうれしいじゃん、これも仕事のうちよ」とニヤッと笑ったそうです。

 社会の中で生きていくと、自分が思っている自分や、自分が憧れているイメージとは、かなり違った役割を割り当てられることがあります。いや、そっちの方がずっと多いでしょう。

 でもそれを懸命にまっとうしていくと、そこに本来の自分がじわじわと滲み出てきて、その役割と不思議にミックスされ、なんとも味わい深いキャラクターが生まれるように思うんですよね。俳優でも悪役で有名だったのに後年すごく親しまれる人が多いのもよくわかる気がします。

 そんなことを、僕が一番好きなレスラー、キラー・カーンさんのことを考えながら思ったわけです。

 

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