ボズの日記(Diary of VOZ)

VOZ(声)。ついついアタマの声に騙されてココロの声を聞き逃してしまいがちな毎日ですが、ダレカの声にも耳を傾けながら書いていきたいと思います

「幸せのちから」〜”自分”になることが仕事

 ピンチになって、なんとかがんばらないとなあ、というときに僕が思い浮かべる映画に昨日取り上げた「ショーシャンクの空に」の他に「幸せのちから」があります。

 原題は「The Pursuit of Happyness」。幸福の追求です。

 アメリカの独立宣言に書かれている「life,liberty,and the pursuit of happiness(生命、自由、幸福の追求)」に由来したものなんですね。

 ”Happiness”を”Happyness”とわざとスペルミスしているのがこのタイトルのポイントで、これは主人公の息子の託児所の壁に落書きされていたもので、子供が間違って覚えてしまうからすぐに直せ、と主人公が怒る場面があります。

 簡単なスペルミスをしてしまうような貧しく劣悪な環境からでも幸福は追求できるのか?というこの作品のテーマを見事に表現しているタイトルなんです。

 

 「幸せのちから」はさまざまなトラブルの果てに一人息子を連れたままホームレスになってしまった男が、一念発起して全くのゼロから勉強して株のブローカーとして大成功するというストーリーで、クリス・ガードナーという人物の実話が元になっています。

 主演はウィル・スミスで息子の役は彼の実子であるジェイデンが演じています。

 実の親子なのでとてもナチュラルな感じがしてそこがかえっていいんですよね。”天才子役”なんか使っちゃうと、そっちが主役になって、肝心のサクセス・ストーリーの印象が弱まってしまいそうですし。

 ウィル・スミスって上手いんだなあと初めて(!)思いました。いくつもの困難を乗り越えて、会社から採用通知を受けた時の、表情とか仕草なんてすごくリアルなんです。

 ちょっと気になって、この間原作も読んでみました。今さらなんですが(苦笑。ガードナーさん自身が書いた原作は映画とはけっこう印象が違うんですよね。

 映画で描かれている、ホームレスから成功をつかむというくだりは後半の1/4くらいで、それまでの3/4は自身の生い立ちを語っていて、自分や母親に虐待を続けた義理の父親の話が中心になっています。

 彼自身も貧しさから窃盗をやったり、成人してもクスリに手を出したり、結婚しても浮気して別れたりと、けっこう荒んだエピソードがえんえんと書かれています。

   それから、息子は映画では5歳という設定でしたが、実際はホームレスの時に子供は2歳未満の赤ちゃんだったようで、映画よりも何倍も壮絶だったわけです(ウィル・スミスは実の子を使いたくて設定を変えたのかもですね、、)。

 全体的に自分の半生をなるべく正直に語ることがメインになっていて、決してスカッとするサクセス・ストーリーではないのですが、竿の中に彼なりの”成功術”がさりげなく挿入されています。

 それまでの人生を貧困と苦境に喘いでいた主人公は、自分が車を止めた駐車場に赤いフェラーリが入ってきたときに、思わず車の持ち主に声をかけ、彼が株のブローカーだと知ると自分もなろうと決意します。

 金融業界に知り合いもいなかった彼はまず、フェラーリの持ち主の男に食らいついていろいろ質問して教えてもらうんですね。そのあと、仕事をするようになると職場の中で見本やメンターとなる人物を見つけ、その都度食らいついてその人の真似をしていきます。

 ホームレスをしながら金融の勉強をするときも、彼が尊敬するマルコムX刑務所の中で辞書を端から端まで精読したというエピソードから

「音をあげたくなったときは、刑務所に入れられたつもりで勉強するよう自分を励ました」

 とあります。現実でも頭の中でも”メンター”を設定して、自分をそれに近づけようとしているんですね。

 また、自己啓発書やビジネス書によく書かれているような方法も実践しています。

 例えば、

「懐具合がいくら寂しくても、スーツがいくら安物でも、自分が成功者であるかのように振る舞えばいいということだ。問題がすべて解決に向かっているかのように振る舞えばいいということだ。”であるかのように”振る舞ううちに、ほんとうに自分はそういう人間だと信じられるようになった」

 他にも

「どこにいようと、自分のいる場所で最善を尽くす。それがわたしの新しい哲学だ」

 と言ったことが書かれています。

 また、赤ちゃんを抱えてホームレスをしながら夢を追うわけですから、お金や将来の不安に耐えず悩まされるわけですが、その対抗策として目の前の課題に集中することを彼はやっています。

「坂道を登る時には、勾配のきつさを呪うのではなく、歩道のコンクリートのひび割れの数を数えたり、乳母車のタイヤの音に耳を澄ましたり、タイヤのリズムに合わせて歩いたりした」

 <目の前のことに集中する>というのは、何年か前に盛んに広まった”マインドフルネス”もそうですし、不安への対策を書いた本には必ずと言っていいほど書かれていることです。

 本当の自分の個性や強みというのは、逆境の中で足掻くなかでこそよく見えてくるものなのかもしれない、とも思いました。

 

 あと、僕がこの本の中で一番印象深かったのはこういうくだりです。

 子供の頃彼はマイルス・デイヴィスに憧れていて、マイルス・デイヴィスになりたいと口癖のように言っていると、彼の母親は

「あなたはマイルス・デイヴィスにはなれないわよ。もうその仕事は、本人がしているんだから」

 と言ったそうで、それを境に彼は

「自分の仕事はクリス・ガードナーになることだと考えた。たとえそれがどういう仕事であっても。」

 と語っています。

 自分の仕事は”自分自身”になること、いい言葉ですよね。

 死ぬ前に振り返った時に、どれだけ成功したとかじゃなく、なんか自分っぽい生き方だったなあ、と思えたらいいなと僕は思います。

 


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幸せのちから (字幕版)

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