アメリカ大統領選でずっと僕が気になっていたのはトランプのスローガン
”Make America Great Again"(アメリカを再び偉大な国にしよう)”でした。
古き良き時代をもう一度、が最大のテーマで、新しい未来は提示していない、というかもはや未来を描けない、それほどアメリカは追い込まれているんだな、と思ったわけです。
それに対してハリスは”Freedom(自由)”、アメリカという国をまさに象徴するような理念ですけど、あまりにざっくりしていやしないかな、とも思いました。
テイラー・スウィフト、ビヨンセ、レディ・ガガ、ビリー・アイリッシュといったトップ中のトップの女性アーティストや、僕が敬愛するブルース・スプリングスティーンや、レオナルド・ディカプリオ、ハリソン・フォード、ジョージ・クルーニーといったハリウッドのスターたちもハリス氏を支持していました。
一昔前なら、これほどのアーティストたちがこぞって支持したら、風向きは大きく変わりそうですが、今回の選挙結果を見るとそれほどの影響がなかったんじゃないかとさえ思えます。それほど、アメリカ国民は切羽詰まっているんだなと思いました。セレブは金持ってるからいいけど、俺たちは違うんだよ、って反発した人もいたんじゃないでしょうか
ちなみに”Make America Great Again"というのは1980年の大統領選挙でロナルド・レーガンが使ったスローガンだったんですよね。そして、結果として、共和党のレーガンが民主党の現職、ジミー・カーターに勝ったわけです。
2016年にトランプ氏が大統領選の出馬した時に、このスローガンを使うわけです。しかも初出馬の4年前の2012年にすでに”Make America Great Again"を彼は商標登録しているんです。自分が発案者じゃないのに(笑。このスローガンでいける、といういう勝算が既にあったのでしょう。彼がビジネスマンとしては一流というのがよくわかりす。今回の選挙でもそれを使い倒して結果を出しているわけですから。
ちなみに、2016年に彼が出馬した際に最後にアメリカが偉大だったのはいつだったと思う?という質問に彼はこう語っています。
「ロナルド・レーガン政権時代だ、その頃、あなたたちはアメリカ人であることに誇りを感じていたはずだ。本当に誇りに思っていた。それ以来、人々が誇りを持つようになったとは思わない」
レーガン政権は1981年から1989年でしたから、
”Make America Great Again"というのは”Back to '80s”と言い換えられるんじゃないか?と僕は思ってしまうわけです。
僕は音楽業界にいる人間なんで、日本もアメリカも今は80'sのサウンドがすごく人気だしなあ、などと考えが飛躍してしまいますけど(苦笑。生きづらくシビアな今の時代から見て1980年代の文化が魅力的に見えているというのはカルチャー的にはあるわけですが、アメリカの政治、経済的にもそういう面があったんですね。
その時代にアメリカで暮らしたわけじゃないのでわかりませんが、レーガンの経済政策は”レーガノミクス”と呼ばれるほど評価されていたわけです。日本でも”アベノミクス”なんて派生語も作られたくらいですし。
でも、良かった時代(1980年代)に戻ろうというのは、やっぱり現実逃避の幻影でしかないでしょう。カルチャーやエンタメ的にはいいんですが、実社会ではどうなんだ?と思ってしまいます。
リーダーたる人は、懐古じゃなく未来志向で、たとえ先が見えなくても、苦汁をなめさせらながらでも、なんとか新しい時代へのポジティヴなビジョンを探り出して、掲げるべきじゃないか、なんて僕は思うのですが、それじゃあ今の世の中では支持されない、と生まれついてのビジネスマンのトランプは冷静に分析したんでしょうか。
ハリス陣営はかつてのオバマのようにもっと未来志向のビジョンを打ち出せば、トランプとの対比がよりはっきりしたはずですが、今の世の中で理想を掲げるだけでは絶対勝てない、ということだったのかもしれません。そして、結果的にトランプに対抗できるような”わかりやすいスローガン”を打ち出せなかったんですよね。
スローガンなんて、ただの”うわべ”の言葉じゃないか、という人もいるかと思いますが、名は体を表すというように、物事の本質をついてきます。言葉は本当に怖いものだと僕は思っています。
今回の選挙は、ジェンダーや人種といった人間のすごく本質的な問題が今までの選挙以上に込められていた大変意味の重いものだった思うのですが、<目の前の暮らし>が<人としての尊厳>より最優先された、僕にはそんな感じがしました。
この選挙結果を受けて仮に一時的な経済的な好況はあったとしても、大きな流れとしては一般大衆にとってより苦しい方向に進んでいきそうな感覚は僕にはあります。至近距離の経済状況を最優先するあまりに、その代償としてとても大事なものを放棄してしまったように思えますし。
そんなことを考えると、世の中的には不況や良くない方向に行く、ということを大前提にして生きていかないと、思います。でも一人の生活者として、悲観に飲み込まれずに、ポジティヴな”種”を日々探してゆくことが何より大事だと思います。”どんな逆境でも明るく生きる”ことがしばらく僕のスローガンになりそうです。